◆ 酒場の夜 ◆
作:いずみ


『黒髪の魔女亭』は、表向きは普通の酒場だが、実際は知る人ぞ知る博打好きの集まる賭場。
賭場は、場合によっては酒場以上の――主に金銭が絡む――情報が集まる。
よく見ていれば来る客の中に貴族が数名混じっているのがわかる。
美術品の類を盗まれたと噂になった貴族もいる。
大賭場。
悪いことは、大抵どこかにつながっている。
調べてみれば、今回のことにカラッパ商会のマルタ婆がかかわっていた。
カラッパ商会について悪い噂もごく稀にあるようだ。
そんな中に、このあたりでは見かけない二人組みがいた。
特に目立っていたのは、少し背の低い男の方だ。
こういうところにまったくなれていないのかあたりをきょろきょろしていた。
傍目から見ても騙されやすい感じがした。
そんな男の隣にいるもう一人のほうは馴れたように、あるテーブルで賭け事をしてる男性に声をかけていた。
しばらくすると、彼らは一緒になって店を出て行った。
それを見ていた黒髪の青年がカウンターにいるマスターに声をかけた。
「あれは?」
「あぁ、大賭場の案内だな。」
そういってから、気にしない方がいいと笑った。
周りでしていた男たちもカードを片手に笑いだす。
「あんなところ行ったら破産するだけだぜ。」
「何人も破産してるしな。」
そう数人が話すと、他のテーブルの客も同意を示しながら大笑いした。
黒髪の青年は水を一口飲んでから、別の話を尋ねはじめた。

そうして、夜はさらに更けていく。